アシタカが「ひどい!」「クズ!」といわれる一番の理由は「サンに首飾りをあげたから」。わたしもあれはホントにずっと「なんで!?」と思ってました。(笑)
このブログ記事では【アシタカがサンに、カヤからもらった首飾り(=玉の小刀)をなぜあげたのか】をゴリゴリに深掘りしています。
『もののけ姫』はリアルに100回くらいは観てるコア寄りファンなのですが、最近ようやく小刀問題についてわたしなりの答えが見えてきました。
専門家でもなんでもないド素人ですが、誰かひとりくらい面白いと感じてくれたら嬉しいな、と思いまとめてみました……よかったら見てみてください。なにかのヒントにはなるかもしれません。
ジブリにも無料で見れる方法があります。
『もののけ姫』アシタカが「ひどい!」といわれる理由【カヤの首飾り】
#映画の中のかわいそうな人
— ★montan@ラーメン大好き (@montan1117) April 24, 2024
『もののけ姫』のカヤさん
アシタカの婚約者であり、別れの時には「いつも兄さまを思っています」と言いながら玉の小刀を渡す健気な娘。
アシタカは「いつもカヤを思おう」とそれを受け取ったのにその後1秒も思い出すことなくあっさりサンにあげちゃうなんて、不憫すぎ😭 pic.twitter.com/Y7FxKeziQT
ジブリ男子の中でもかなり上位の人気っぷりにも関わらず、
- ひどい
- クズ
- 浮気者
- 女たらし
などと散々な評価も受けている『もののけ姫』主人公・アシタカ。
アシタカが「ひどい!」と言われる一番の理由は、サンにカヤからもらった首飾り=「玉(ぎょく)の小刀」をあっさりあげてしまったからです。
しかもカヤはアシタカの婚約者。つまりパッと見、アシタカは元カノであるカヤからのプレゼントを、旅先でいい雰囲気になった今カノに横流ししたように見えるんです。
アシタカは一体どういうつもりでサンに玉の小刀をあげてしまったのでしょう。まずは、
- 公式の答えと、
- ネット上の考察
を順に紹介します。
アシタカがサンに首飾りをあげたのはなぜ?→公式では明かされず
カヤの小刀をサンにあげた理由は、公式では明かされません。
『もののけ姫』作中では言及されず、スタジオジブリや宮崎駿監督のコメントにも、これまでカヤの小刀についての発言はないようです。
ただ、ひとつ有名な逸話で、宮崎駿監督のこんな発言があります。▼
「男なんてそんなもん。」
………ひ、ひどい(笑)
この逸話はファンの間では広く知られていますが、じつは情報源はハッキリしていません。
どうやら、過去TVで放送された『もののけ姫』制作のドキュメンタリーに、そのような話が含まれていたのでは……?とのことですが、DVDに収録された内容からは確認できません。
実際の監督の考えとは違う可能性もあります。
「男なんて」発言は衝撃的なので、尾ひれがついて広まったのかもしれませんね
ネットの考察まとめ→ひどい・クズ・浮気者…
アシタカがサンに玉の小刀をなぜあげたのか、ネット上でもいろんな考察がされています。▼
- アシタカはクズで浮気者?
- アシタカはカヤのことを妹のようにしか思っていなかった?
- 元カノからのプレゼントを、旅先の女にあげた女たらし?
- 玉の小刀はお守りだから「生きていてくれ」という意味でサンに渡した?
- 故郷の村を出た時点でカヤとの関係は解消されたのだから、何の問題もない?
- 時代的にもアシタカの身分(村の次の長)的にも、側室(愛人)がいるのは当たり前?
- 宮崎駿監督からの「世の中そんなに甘くない」とのメッセージ?
- 監督はアシタカを「完璧な人間」として描きたくなかった?
いろ~んな意見がありますが、やはり「アシタカはひどいクズ男だ」ととらえる人が多い印象です。アシタカが好きという人ですら、サンに玉の小刀をあげたことについてはどうかと思うという意見が目立ちます。
でもわたしには、ど~~~~~うしても、アシタカがそんなひどい人には思えないんですよね……。だってアシタカって、カッコよくて、真面目で、礼儀正しくて、正義感も強くて、優しくて……そんな人じゃないですか…。きっと何か理由があるはず!
で、ずーーっとあれこれ考えたり調べたりしながら、最近になってやっと考えがまとまってきたので、紹介します。
【筆者考察】アシタカがサンに首飾りをあげた理由
わたしは下記の2つが、アシタカがサンにカヤの小刀をあげた理由じゃないかと考えます。▼
- アシタカはサンと二度と会えないと思っていた
- サンの無事と幸せを願った
今のところ、個人的にはこの考えに落ち着いています。
なぜそう考えるか、理由や根拠を説明しますね。
※あくまで見方のひとつです。「そう考える人もいるんだな~」くらいの温かい目で見てくれると嬉しいです。
【理由①】アシタカはサンと二度と会えないと思っていた
映画をよくよく紐解くと、小刀を渡した時、アシタカはサンに二度と会えないことが読み取れます。
結果的に再会する上に、アシタカが「サンとは今生の別れだなあ」なんて言わないので分かりにくいんですが。
二度と会えないからこそ、アシタカはサンに玉の小刀をあげたのだと思われるのです。
まずはアシタカがサンと二度と会えないと考えられる理由を説明していきます。
アシタカは森を追い出されている
アシタカは森の神である乙事主とモロの君から、
- お前にできることは何もない
- 森を去れ
と言われています。
つまりアシタカは、体力が戻り次第、即森から出ていけと警告を受けているのです。
ちなみに体力が回復するまで猶予をくれたのは、シシ神がアシタカを助けたから。
森の神たちに「去れ」と言われた以上、アシタカは出ていくしかありません。次に彼らに会ったときは、敵として攻撃されてしまうからです。
しかしタタラ場にも戻れない
「まあでもタタラ場には戻るよね。だってまだ何にも解決してないし、おトキさんたちは歓迎ムードだったし」と最初は思ったんですが、よく考えたらこれもダメなんです。
最後にタタラ場を出たときに、アシタカはタタラ場のリーダーであるエボシと対立状態になってしまったからです。
▼アシタカは自分が呪われた原因がエボシであると知り、強い憎しみと怒りを抱きました。
▼サンとエボシの戦いを止めるためでもありましたが、呪いについて「わずかな不運」と言われたことで、激昂したアシタカはエボシに危害を加えてしまいます。
そもそもアシタカがタタラ場に留まっていたのは、牛飼いの甲六たちを助けてエボシに「ゆるりと休まれよ」と言ってもらえていたからです。滞在を許可されていたってことですね。
そのエボシと対立してしまったので、アシタカはタタラ場にも戻れません。
くわしくは後述しますが、アシタカは故郷の村へも帰れないので、この時点では、居場所も行くあてもなくなってしまったのです。
メンタル的にも落ち込んでいたアシタカ
アシタカはメンタル的にもかなり参っていました。
- シシ神は呪いを解いてくれないし、
- サンは人間の世界に戻らず山犬の一族として戦いに行くし、
- 森と人が争う道も避けられない。
どうにかしたいと必死になって働きかけても、結局は何も変えられない。
森にもタタラ場にも居場所はなく、自分は呪いを解けず苦しみの果てに死ぬ。
置かれた状況とメンタル面から、アシタカは失意の元、この地からいなくなるつもりだったことが想像できます。
案内役のモロの子と別れたあとの、霧がかった土砂降りのシーンがアシタカの心情を表したものなら、アシタカの絶望や悲しみや無力感は相当のものだったでしょう。
いよいよ死出の旅路につくつもりだったのかもしれません……。▼
ですがアシタカには、どうしてもサンに伝えたいことがありました。
それが【サンの無事と幸せを願っている】ということ。
【理由②】サンの無事と幸せを願った
アシタカはサンに対し、特別な想いを持っていました。
異性として好き、…っていうのもあるだろうけど、もっとこう根幹のところ……
- 人間社会から理不尽にもはじき出された者同士であること
- 強い悲しみと怒りを抱えていること
- ゆらぐ自身のアイデンティティー など
から、深い共感を抱いているように感じます。「助けたい」という想いは、他のどのキャラクターに対してよりも強いでしょう。
アシタカが、サンの無事と幸せを願ったのはカンタンに想像できますが、玉の小刀が持っている意味なども考慮すると、さらに説得力が加わってきます。
玉の小刀の意味
玉の小刀には2つの意味が込められていて、
- ずっとあなたを愛しています【本来の意味】
- あなたの無事と幸せを願います【カヤが込めた想い】
まず本来の意味である【ずっとあなたを愛しています】ですが、公式本では玉の小刀について、次のように記されています。▼
黒曜石のナイフのこと。黒曜石はガラス状に薄くさけることから石器として珍重され、縄文時代の重要な交易品だった。アシタカの村では、乙女が変わらぬ心の証に、異性へ贈るものとされる。
またカヤが込めた想いについても、カヤ自身のセリフがあります。▼
「お守りするよう息を吹き込めました。」
【ずっとあなたを愛します】については、わたしは最初は「乙女から」と書いてあるので、アシタカ(←あたり前だけど女の子じゃない)には当てはまらないなと思ったのですが、「ずっと愛してるよ」の意味も含めてサンに渡したとしてもおかしくないなと思い直しました。
ちなみにネットで「アシタカは浮気者だ」「二股だ」とも言われますが、カヤとは死別したようなものですから、次の恋に出会って幸せになるのは、別にそんなに責められることじゃないのでは…と個人的に思います。
(なぜ死別かは後で紹介)
アシタカはカヤの気持ちまで手放したわけじゃない
「だとしても、カヤからもらったものをあげるのはひどいよ!」
……と思う人もいるかと思いますが、別にアシタカは、カヤの気持ちまで手放したわけではないですよ、絶対。
というのも、アシタカは「物」自体にあまり執着がないように見えるからです。▼
- 村でタタリ神に壊された物見やぐら(じいじがいたとこ)をまったく惜しがらなかった。=人命を優先。
- 高価な砂金を、わずかな買い物に使った。
- タタラ場で屋根から落ちるサンを救うのに、屋根の一部を迷わず破壊。
- 首だけになったモロに腕を食われたエボシの手当てに、迷いなく自分の着物を裂いて使った。
これだけ物への執着を見せていないにも関わらず、カヤの小刀だけはサンに渡す直前までしっかり持っていたのだから、逆にどれほどカヤを大切にしていたかが分かります。
それにアシタカは、どんな状況であっても人との約束や気持ちを尊重しようとしています。▼
- タタラ場の女性たちとの約束「もしよかったらあなたたちが働くところをぜひ見せてください」を守った
- エボシに激しい憎しみを覚えたのに、病で寝たきりの長の願い「その人を殺さないでおくれ」を聞き入れた
- おトキたちとの約束「必ずエボシを連れて帰る」を守った。
サンへのメッセージとして小刀を手放したとしても、アシタカはカヤから受け取った気持ちまであっさり捨てるような、ひどい人ではないはずです。
アシタカは怒りや悲しみや不条理を抱えながらも前に進むキャラクターですが、カヤの想いもまた、捨てずにずっと胸に大事に抱え続けているのでしょう。
アシタカが村に帰らないのはなぜ?カヤが待ってるのにひどい…
アシタカが「ひどい!」といわれるのには他にも理由があります。
そのひとつが、「最終的に呪いが解けたのに、なぜカヤの待つ村へ帰らないんだ!」ってことです。
ですがこれにも、ちゃんと理由がありますよ~!お辛い理由ですが……。
アシタカは帰りたくても帰れない
アシタカは村へ帰らないのではなく【帰れない】んです。
なぜならアシタカは、村を追放されてしまった身だから。夜中に見送りもなく、寂しく旅立っているのもそのためですね……。
アシタカは物語冒頭、タタリ神に矢を射って、呪いを受けてしまいます。襲われたカヤたちを助けるためではありましたが、神を殺すのは村の掟に背くことです。
神殺しの罪により、アシタカは村のトップであるヒイ様から、追放という重い決定を下されてしまいます。(ヒイ様の思惑は別のところにあるようですが、今回は触れずに進みます。)
村の者から非常に愛されていたアシタカは、みなに「なんとかならないのか」と言われますが、追放は免れられませんでした。
出ていく前にまげを自ら落としたのは、遺髪を置いていくためですね。(よく見ると、じいじだけ目を逸らさずにずっとアシタカの姿を見守っているのが、なおさら辛い……)
まげを落としたことで、アシタカが「村において人ではなくなった」ことを意味します。
一度村から出た者は、敵のスパイだとみなされる?
「そうは言っても実際アシタカが無事に帰ってきたらみんな喜ぶと思う!」……とは思うのですが、そう簡単な話ではないんです。
エミシの村のモデルとされる蝦夷(アイヌ)では、一度村を出た者が【スパイ】として戻り、大変な事態を引き起こした歴史があるのだとか。
そのため、
- 村を出ていく者を見送らない
- 出立は夜に人目を忍んで
- 一度村を出た者は受け入れない
という掟があったのではと考えられているそうです。
アシタカの故郷であるエミシの村の掟も似たようなものだとしたら、どうあってもアシタカは帰れないのです。
カヤはアシタカの帰りを待っていない→死別も同然だから
カヤがアシタカを待ってるわけじゃないというのは、決して「昔の男なんて忘れて新しい恋に生きるわ!」なんてポジティブな話ではありません。
カヤはアシタカが、二度と村へは帰れなくなってしまったことを=アシタカが二度とは帰ってこないことを、悲しくもきちんと理解しているからです。
だからこそ掟を破ってまでアシタカに会いに行き、永遠の別れの餞別として、大切な玉の小刀をアシタカに渡したのです。
玉の小刀の意味は【ずっとあなたを愛しています】。
本当なら正式に結婚した時に、華々しい祝福の中で渡したかったろうにと思うと、もう、キツい………。涙なしには見られない……。
この時、カヤは掟破りの罰を受ける覚悟だと発言しますが、その罰は【死罪】だったのではないかと考えられ、カヤの覚悟がどれほど強いものだったかが推して測れます。
そのあたりは下記の記事でがっつり考察しているので、気になる人は暇な時にでも見てみてください。▼
まとめ
アシタカがカヤにもらった玉の小刀をサンにあげた理由は、
- アシタカはサンと二度と会えないと思っていたから
- サンの無事と幸せを願ったから
だと、わたしは考えています。
「ひどい」「クズ」「浮気」と思ってしまうのも正直無理ないと思いますが、決してアシタカがカヤからサンに乗り換えたとか、心変わりしたとかいう冷たい話ではありません。
アシタカとカヤは二度と会えず、またアシタカとサンも二度と会えないはずでした。(サンとは結局再会できちゃうから、ややこしいことになってる)
二度と会えないからこそアシタカはカヤの小刀を大切に持ち続け、死出の旅に向かう前にサンに渡したのだと思います。
長くなりましたが、とにかく一番言いたかったことは「アシタカはひどくない!!!」「もののけ姫面白いから深掘りしてみて」ってことです。
ここまで読んでくださった方がどれだけいらっしゃるか分かりませんが、お付き合いいただき、ありがとうございました。